暑い日々が続いている。
ようやく最近蝉の鳴き声を聞くことが多くなってきたけど、
それまでは蝉の声はあまり聞こえなかった。
蝉は、気温が35度以上の暑い時には鳴かないのだそうだ。
気温が高くて蝉が鳴かないってのは危険信号なのだと。
それだけ暑い日々だってこと。
蝉というと、ボブ・ディランの『 Day of the Locusts(蝉の鳴く日)』の曲を思い出す。
この曲は、1970年に発表されたアルバム『 New Morning(新しい夜明け)』の2曲目に収録されている。
この曲は、当時ディランがプリンストン大学で、
名誉音楽博士号を授与された時のことを歌った曲で、
大学側は、学生に人気のあったディランに学位を授与することで、
大学が世間の話題になることを目的としていた、なんて話もあった。
そんな授賞式に出たディランだったのだが、
盛り上がっているのは大学側のお偉い方ばかりで、
本人はどこか他人事のように捉えていたらしく、
その時、大学の外では17年周期で大量発生する蝉が大音量で鳴いていたとのことで、
授賞式の心無い拍手より、外で鳴いている蝉の方が、
よっぽど自分のために祝福しているように感じたという思いがこの曲に込められている。
話は逸れるけど、蝉は周期的に発生する習性があるらしく、
日本の生物学者、吉村仁教授(静岡大学)が、
その謎を解明して、17年周期、13年周期で北米に大発生するセミを
「素数ゼミ」と名付けたとのこと。
日本では蝉の鳴き声だけではなく、虫の鳴き声に季節を感じたり、
生活の中の一部として捉えられていて、特に悪いイメージはないのだが、
外国ではそうではないらしい。
アメリカでは、蝉はうるさい害虫として嫌われているとか。
日本では昆虫を飼うっていう文化があるけど、
デパートでカブトムシやクワガタが売っていたりとか。
それはアメリカではありえないことらしい。
そのアメリカで昆虫好きな少女「ジェシカ・オーレック」の話を聞いたことがあって、
昆虫好きだと言うとアメリカでは、変人扱いされて肩身が狭かったけど、
日本では昆虫をペットとして飼うという話を聞いて、
「そんな夢のような国が地球上にあったんだ!」と、
日本を訪れることになり、
初めて見た「夢の国」日本では、
「ごく普通の人が、鈴虫とキリギリスの羽音の違いを識別できることに驚嘆し、
ホタルを悲恋の象徴と感じる文学性にクラクラした」
と。
その虫好きが高じて、古事記や源氏物語まで遡って調べたりして、
彼女が言うには、日本人の昆虫好きの説明の結論として、
「もののあはれ」があるのだと。
もののはかなさに美を感じることが特徴的であるという文化。
「日本の人々は、虫のはかない命に美を感じます。アメリカ人に、その文化はありません」
そしてとうとう、日本人の昆虫好きの文化を知ってもらおうと映画を制作することに。
「 BEETLE QUEEN CONQUERS TOKYO 」(邦題「東京カブト」)
日本人としては、特に昆虫好きだという意識はなかったけど、
確かに、子供の頃はカブトムシやクワガタ飼っていたし、
鈴虫もきゅうり与えて飼っていたりとかしたな。
蝉の鳴き声にしても、秋の虫の音にしても、悪い印象は特に無いし、
当たり前の季節の風物詩という感じでいたけど、
外国からみるとまた違うんだね。
それなのに、日本人はその特異な素晴らしい自分たちの文化に気づいていなくて、
アメリカよりも、自然破壊とか環境保全とかに無関心であることが、
なんだかとても矛盾を感じる。
それもなんだか日本人らしい一面という気もするけど。
あ、なんだか虫の話になってしまって、話が逸れちゃったけど、
ディランの曲の話に戻そう。
日本語タイトルとしては「蝉の鳴く日」となっているが、
原題は『 Day of the Locusts 』
「 Locusts(ローカストス)」という単語は調べると、「イナゴ」で、
「蝉」に使われることもあるのだが、
通常「蝉」は「 Cicada(シケイダ)」だという。
なぜ、ディランは「 Cicada 」とせず「 Locusts 」としたのか?
「 Locusts 」には、イナゴの大群というイメージがあり、
同じ蝉でも17年周期の蝉は大群なので、この言葉を使ったのでは?
とか、
旧約聖書には、制御不能な自然の力や大衆の暴発を象徴として、
「 Locusts 」という言葉が頻繁に登場するのだとか。
いずれにしても、ディランは意図的に「 Locusts 」という言葉を選んで、
伝統を誇る大学やアカデミーを含む人間の歴史が、
いかに小さく閉じた限界の中にあるかを示唆し批判し、
その外の世界での蝉の大音量の自然の大きさと力強さと、
その対比を表現しているという意味を込めている。
たぶん、面白く無い授賞式から早く解放されて、
外で(自分のために)蝉が鳴いている開放された世界に行きたいと思っていたのだろう。
歌詞の一部にも出てくる
授賞式が終わった帰りに恋人とドライブをしながら呟く
Sure was glad to get out of there alive
生きてそこから逃れられて本当によかった。
(和訳 by きいうし)
And the locusts sang, whoa, it give me a chill
Yeah, the locusts sang such a sweet melody
And the locusts sang with that high whinin' trill
Yeah, the locusts sang and they was singin' for me
Singin' for me, whoa, singin' for me
そして蝉が歌った、そう、ゾッとする気持ち
そう、蝉はなんて甘いメロディーを奏でるんだ
そして蝉たちは高い声で歌っていた
そうだ、蝉が歌ったんだ、私のために歌っていたんだ
私のために歌ってる、そう、私のために歌ってるんだ
(和訳 by きいうし)
実は自分は、今までこの曲をそれほど意識していたわけではなかったが、
今回、この記事を書こうと思って調べ直していたら、
改めて、色々な発見があった。
やっぱり、ディランって凄いな。
(2024/08/13追記)
ちなみに、2024年は、なんと素数ゼミの17年周期と13年周期が重なる年で、
これは221年ぶり! とのこと。
今年のアメリカ(特定の地域だと思うけど)は凄いことになっているらしい。
ただ、このダブル羽化を経験できるのはとても貴重なことで、なにせ次は221年後だから・・・
それに、知らなかったけど、
蝉は「落葉樹林の生態系のとても重要な部分を担っている」らしく、
とのこと。
相当うるさいとは思うけど、これも自然の神秘なので、アメリカの方々が寛容であることを願うばかり。