2025年9月に大塚国際美術館に行ってきた。

古代壁画から現代絵画まで、世界26カ国・190以上の美術館が所蔵する約1,000点の西洋名画を、陶板で原寸大かつ忠実に再現されていて、その作品をまるで現地で鑑賞しているかのような没入感のある環境展示を楽しめる美術館である。
きっかけは山田五郎さんのYouTube「山田五郎 オトナの教養講座」なのだが、
(この「山田五郎 オトナの教養講座」は美術好きなら必見の動画シリーズ)
この美術館は、また凄いスケールで、世界中の名画を、色やサイズだけでなく、表面の質感や筆遣いまで忠実に再現した「陶板画」として展示されている。
陶板画というのがポイントで、陶板は2,000年経っても制作当時の姿を保てるため、本物の絵画はどうしても劣化は避けられないが、今の絵画の状態を忠実に保てるという意義がある。
それは本物を見ることには代えられず、また違った体験ではあるけれど、
世界中の美術館を巡るなんてことは現実的ではないし、レプリカといっても、その再現性はとても優れていて、特に原寸大というのは、名画を本とかで見るのとは全く違うリアル感が凄いのである。
筆使いや絵の具の盛り上がり、額縁までをも忠実に再現している。
陶板絵画なので、自由に写真は撮れるし、絵に触れることも可能で、その絵の具の盛り上がりを実際に手で感じられるというのも凄い。
(額縁は木製なので、触らないでとのこと)
特に環境展示といって、「システィーナ礼拝堂」「カッパドキアの聖テオドール聖堂壁画」「ポンペイの古代遺跡」「スクロヴェーニ礼拝堂」など、その現地の空間までをも再現している展示は圧巻。
製作陣が現地調査を繰り返して、世界の美術館とも連携しながら、これを全て陶板で製作していて、その調査力と技術に頭が下がる思いである。
まずは美術館に入ったその1番目にあるのは、バチカンの「システィーナ礼拝堂」のミケランジェロの「最後の審判」を再現したエリア。


とにかく、作品数が膨大なので個人的な選択だけど、主なものだけ紹介。

「エル・グレコの祭壇衝立復元」
元は、スペイン・マドリードのドーニャ・マリア・デ・アラゴン学院の高壇を飾っていた大祭壇衝立で、1600年前後、エル・グレコ円熟期の仕事のもの。
現在は19世紀初頭の戦乱で解体・破壊され、6枚に分かれた油彩画だけが各地の美術館に散在する「幻の祭壇画」で、
これらが全て、独自の多色陶板技術で色彩・質感を再現し、本来の配置・スケールどおりに1つの祭壇建築として組み立ててられている。
これを鑑賞することができるのは、大塚国際美術館だけである。
こういう展示が、この美術館の大きな見どころである。
エル・グレコって、スペインの画家だと思っていたら、
この人はクレタ島出身のギリシャ人だった。
スペインで活躍した人だから、スペインのイメージが強いのだな。


「スクロヴェーニ礼拝堂」は、イタリアのパドヴァにある14世紀初頭の礼拝堂で、オリジナルはジョット・ディ・ボンドーネのフレスコ画。
2021年に「パドヴァの14世紀フレスコ作品群」としてユネスコ世界遺産に登録されている。
聖母マリアの生涯とキリストの生涯を絵巻物のように展開し、「黄金伝説」を基に、「受胎告知」「エジプトへの逃避」「最後の晩餐」「ユダの接吻」などがあり、人間の感情をリアルに表現した革新作で、圧巻である。
このジョットという人は、中世絵画において革新的な描き方をした人で、それまで無機質・無感情・無表情で、平面的な人物描写だったものを、立体的・人間的・感情的に描いたことで、その後の絵画に大きな影響与えた。
後に、ボッティチェッリ、レオナルド、ミケランジェロなども影響を受けたという。
このフレスコ画の再現では、キリストの光輪の盛り上がりまでをも再現している。
ジョットの凄さは、山田五郎さんが詳しく説明してくれている。
(自分もこの動画で学んだのだけど)


トルコ・カッパドキアの「聖テオドール聖堂壁画」が、環境展示として空間ごと再現。
色彩だけでなく、凹凸や剥落した部分まで忠実に再現されており、まるでカッパドキアにいるかのような臨場感を味わうことができる。
壁や床の凹凸も陶板で作ったというから、このこだわりが凄い。というか凄まじい😱
入り口の鉄骨までをも、現地と同じに制作しているという。
そして、「受胎告知」のコーナー。
「受胎告知」とは、キリスト教の新約聖書に記されたエピソードで、大天使ガブリエルが処女のマリアに、聖霊によるイエス・キリストの懐胎を告げる場面を指していて、
このテーマは数多くの画家達が描いているのだが、
それらを一同に集めて見れるのもこの美術館の素晴らしさ。

なんと、言葉の文字が飛び出ている。この斬新さがなかなか。
それも斜め上に、マリア様に向かって言葉が放たれている。
この言葉は、ラテン語で書かれた大天使ガブリエルの言葉で、
内容は、聖書ルカ福音書にある挨拶「アヴェ・グラティア・プレナ、ドミヌス・テクム」(めでたし、恵みに満ちた方、主はあなたと共におられる)
ということらしい。
と、これは斬新だと思っていたら、数ある「受胎告知」の絵画では、
言葉が描かれているものが結構他にも存在していた・・・
今で言ったら、セリフだよね。
やっぱりそういう発想になるんだね。

マリア様の上に天からの聖霊の光で、鳩が飛んでいるのだが、
鳩が外から部屋に入って来れるように、小さな天窓がわざわざ開けらている。
おまけに、大天使ガブリエルの頭の上の光輪が、頭に取り付けられている。
光輪は浮いているのでは? という常識を打ち破る描き方。
この絵は山田五郎さんが下の動画で詳しく説明しているけど、
色々な意味でとても興味深い作品。

「まあなんてこと!」とマリア様の驚く様子が描かれている。

ボッティチェッリの師匠と言われている人なので、やはりマリア様の描き方は、驚いた様子。

マリア様が胸の上で手を交差する仕草は、「受容」の意味があるのだという。
元は1440–1445年ごろに、制作されたフレスコ画。

もうひとつのフラ・アンジェリコの「受胎告知」は、元は1425-1428年頃に板上にテンペラと金で描いた祭壇画。
これも両手を交差しているので「受容」という意味。
この絵では、聖霊の光の中の鳩が描かれていて(小さく鳩がいる)、左上にアダムとイブがエデンの園から追放される様子が描かれている。
マリア様の懐妊受け入れによって、キリストを通した「救済」が可能となり、アダムとイヴによって象徴される人間の「原罪」が贖われることが表現されている。

この作品は師匠ヴェロッキオとの合作といわれているけど、
レオナルドならではの、得意なスフマート(輪郭線を描かずに、煙のように色をぼかしながら溶け合うように表現する技法)は、とてもレオナルドっぽい感じ。

これも面白い描き方。マリア様はなんと、告知を受けて逃げ出している。
猫も驚いて逃げる(猫は悪魔の象徴なので)。

とても珍しい描き方で、描かれているのはマリア様だけで、
この絵を見る人側に、お告げを告げる大天使ガブリエルがいるというシチュエーション。
何か自分の感情を鎮めながら、この状況を理解しようと努めているかのよう。

この「受胎告知」は「受胎告知の三連祭壇画」の中央パネル部分で、
ロヒール・ファン・デル・ウェイデンはネーデルランド(オランダ)出身の画家。
白いユリは乙女マリアの純潔を意味し、花が三輪咲くことにも意味があり、
花瓶は聖母の子宮、花はキリスト。聖母の子宮にキリストが宿ったこと。
栓がされたガラスの瓶は、神だけが中に入れる聖母の子宮の暗示ということらしい。
基本的に「聖母の純潔」と「三位一体(トリニティ/父と子と聖霊。父は神、子はイエス、聖霊は神の霊的な力(Holy Spirit))」を同時に象徴していると言われている。
山田五郎さんの動画では、「受胎告知」について詳しく解説しているので、参考まで。
他にも、「受胎告知」について様々な作品を解説してくれているサイトがあった。
(このサイトでは、他にもいくつものテーマに沿って、描いた多くの画家達の作品の比較をしていて、とても勉強になる)
こうして「受胎告知」がテーマの様々な作品を、一度に見比べることができるなんてこと、
これも大塚国際美術館ならではの特別な鑑賞方法である。
しかし、ひとつひとつの内容が濃い・・・
とても長くなりそうなので、(その2)に続く。
▼▼▼▼▼
美術館に来たら、鳴門の渦潮を是非見ると良いです!
